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せめて前向きに考えるなら、嫌われているわけじゃない。バカにされ、利用されているだけ。ブサカワのペットと一緒だ。ははは、私、みんなと同じ立場じゃなかったんだ。
個室に座り込んで、しばらく動けなかった。どうすれば良いのかわからなかったけど、いつまでもトイレにいるわけにもいかない。美知香ちゃん達をすぐに嫌いにはなれないけど、今までと同じように楽しくお喋りすることもできない。今日はとにかく帰ろう。不審に思われないようにふるまって、鞄だけ取って、帰ろう。
洗面台で顔を洗うと、少し気分がましになった。涙の跡も、洗い流した。ぷよぷよのほっぺを両手でぴしゃん! と叩くと、「私は愛され系デブ、愛され系デブ……」とつぶやいた。
教室に続く廊下まで戻ると、今度はデブらしく、どたどたと足音をさせながら走り、大きな音をさせて扉を開けた。荒い息を吐きながら、自分の机に向かう。
「ごめん、なんかママから急いで帰って来いってメールあったから、今日は帰るね」
慌てているデブの演技。演技じゃないか、そのまんまか。ははは。
「えー、そうなの? ざんねーん」
「また連絡するね」
「じゃあね~。夏休み楽しもうね~」
その声は、仲の良い友だちに話しかけるトーンそのものだった。でも、私がこの場から居なくなったら何を言われるんだろう? 今は、考えちゃだめ、考えちゃだめ、考えちゃだめ……。
教室を出て、階段を下り、靴を履き替える。グラウンドで運動部が練習しているのを横目に、校門を出る。信号を渡って角を曲がり、絶対に美知香ちゃん達からは見えないという所まで来て、気が抜けた。早足だったのが、重い足取りになり、ため息をつきながら、とぼとぼと家まで帰った。
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