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硬い緑の葉を繁らす金木犀の垣根越しに、周囲の家よりもひとまわりは大きな愛真の自宅を今度は側面から見上げる。
深みのあるオリーブグリーンの屋根にベージュに近いクリームの外壁。その落ち着いた温かな色合いが、大きさからくる圧迫感をやわらげているのか、成金趣味のような下品さがない。
色とりどりのバラが咲き乱れる南向きの正面へと戻ると、南東の角寄りにある門の手前でゆっくりと足を止めた。これで、愛真の家を一周してしまった。
「はぁ……これじゃ不審者になっちまう。何やってんだか」
広志は背負ったギターケースを揺らしながら、ため息と共に肩を竦める。
憤激のまま、エレキギターと携帯電話だけを持って飛び出して来てしまったが、気付いたらバスに乗り、足が勝手にここへ向かっていた。
涼介の所でもレオンの所でもなく、愛真の下へ来てしまったのは、やはり切羽詰まっているからだろうか。
(愛真なら、的確な助言をくれそうな気がするんだよな。慰めとかじゃなくて)
このままでは、大切な生き甲斐を――夢を奪われる。下手をしたら愛真までも……
一瞬、去って行く愛真の後ろ姿をまざまざと想像してしまい、ぞっと嫌な汗が背筋を伝う。
それを頭をぶんぶん振って追い払うと、意を決して再び足を踏み出し、インターホンに指を伸ばした。
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