第一章 悩める思春期

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 身長が百八十近い広志の肩の高さまである、軽いが頑丈そうな金属の扉を押し開け、レンガ色の石畳を模したスロープへと踏み入る。  まだ朝だというのに、力強く鳴き叫ぶセミの合唱に耳を刺されながら、ソーラー電池の貼られた屋根を載せた、優に乗用車三台は停まるだろう立派な二階建てのガレージを右手にちらりと見遣(みや)ると、広い庭を左手に眺め玄関へ向かう。 (あのガレージも、家と同じデザインでしゃれてるよなぁ。ちょうどガレージが建ってる東側から一メートルくらい土地が下がってるし、建物自体が普通の二階建てより高さがないから、そんなに日差しも(さえぎ)らないし)  南向きの庭は、朝の日差しを燦々(さんさん)と浴び、手入れの行き届いた(しば)が青々としている。  あちこちに、ハーブや花が植えられたおしゃれなプランターが置かれ、うっとうしくはないがにぎやかで、微かな風にふわりとハーブの爽やかな匂いが(かお)る。  片隅にはささやかながら菜園があり、ほんのり赤らんだ中玉トマトと黄色のミニトマト、鮮やかな深緑のズッキーニが、きゅうりとレタスと共に(いろど)り豊かに実っている。  裏庭には小振りだが、古色蒼然とした枝振りも立派な桜があり、他にもベリーが数種類、おそらくは姫りんごだろう若木も(つや)めく青葉を広げていた。 (元は農家の母屋と納屋が建ってたって言ってたけど、この家やら庭やらを合わせた敷地なら、建売住宅四戸は建つんだろうな。ちっさい公園付きで)  などと下世話なことをつい考えてしまうが、父親であるクリスの愛真に対する溺愛っぷりが分かろうと言うものだ。  ちなみに広志の自宅は一応注文住宅で母親などは自慢げだが、この家とは(はな)から比べ物にはならない、広さもデザインもありふれた家だ。 (愛真がこんな家に一人暮らししてるなんて知ったら、また変なプライド刺激されて、なんやかんやケチ付けんだろうな。うちの親は)  容易に想像が付くだけに、ますます苦虫を噛み潰す気分の広志だ。
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