侵食.26

2/5
前へ
/5ページ
次へ
人が寝ている姿を見るのは好きです。 心臓の音を聞くのも好きです。 肺の中に身を潜め、息遣いの振動を感じることも好きです。 赤の匂いを嗅ぎ、粘膜の肌触りを楽しみ、突き破る瞬間、彼方から聞こえる泣声を耳にします。 嗚呼、限りない悦び。 身体をうち震わせる風にときめきます。 月影に歌を染め、耳をすましてください。 夕暮れに追いやられたる鳥が、舞い降りて来るでしょう。 その透き通る翼で、秘めたる小箱の蓋を開けてください。 溢れ出る血汐を、わが盃に注ぎましょう。 その盃を口に含みながら、琴の音の流れに乗り、一人問うのです。 何者かと。 耳たぶを噛む、月灯り。 汝は名もなき花である、茎である、葉であると。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加