侵食.26

3/5
前へ
/5ページ
次へ
手入れのしてない月桂樹の葉が、窓から垂れ下がる。 その葉の先を辿ると、月夜に浮かぶ月。 光が砕けて、さらさらと舞い、降り積もる。 「何、笑ってんの」 窓枠に寄りかかり、月桂樹に語りかける。 そういえば、長いこと水やりもしていないのに、随分と生き生きしているように感じる。 連日続いた猛暑の中、窓の傍で太陽の光を火傷するほど浴びているはずなのに。 生命力が強いのだ。 私と違って。 手にしたナイフが、月の光を反射する。 きらりと光るそれは、一筋の希望とも呼べるのかもしれない。 糸のように細いものに、これまで何度となく縋りついてきた。 しかし、そこに救いはなかった。 果てしなく広がる、荒れ果てた土の上、たったひとりで、自分の影を踏むしかなかった。 手首に刃を当てる。 こんなことで命は消えない事はわかっているのに、やめられない。 皮膚が破け、深紅の雫が滴り落ち、月桂樹の葉を濡らす。 葉の先から、涙のごとく、ぽとぽとと水溜まり。 水溜まりに浮かぶ、円い月。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加