侵食.26

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午前2時。 私が、彼女の部屋の前に来た時、中から小さな叫び声が聞こえたような気がした。 持っていた合鍵でドアを開ける。 玄関には、彼女の靴があった。 灯りもついている。 浴室からは、石鹸の香りとあたたかい蒸気。 彼女の姿が見当たらず、名を呼ぶが、返事はない。 近くのコンビニにでも行ったのかもしれない。 だったら、すぐに戻るだろう。 ソファに腰かけると、窓の傍の月桂樹が目に入った。 カーテンを開けた窓の闇夜を背に、月の光で白く浮かび上がっている。 茎や葉が垂れ下がり、壁を伝い、床まで届いていた。 この前来た時よりも、明らかに成長している。 短期間でこんなにもなるとは、なんて、生命力が強いんだろう。 気になって、その植物の傍へ行く。 一枚の葉が、深紅の雫をぽたぽた落としていた。
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