神山さん家の事情

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1丁目の神山さん家は、近所でも評判の理想的な家庭だった。 お父さんは、理想のエリート会社員。 大勢の部下に尊敬されるトップの営業マン。 お母さんは、理想の主婦。 家事も子育ても何でも完璧にこなしている。 「カリスマ主婦」として雑誌にも載ったことがあるほどだ。 お姉ちゃんは、弟想いで、しっかり者の長女。 いつも長女らしく弟の面倒をみている。 末っ子長男は、一家の期待の星。 IQも高く、周囲を驚かせている天才児。 学習塾や沢山の習い事をしている。 ペットは、かわいいかわいいトイプードルの女の子。 ドレスをいつも着せていて、家族とご近所のアイドル。 誰もがうらやむ理想の神山さん家。 でも、本当は・・・ 「こんな金もうけまみれの会社なんてまっぴら」 「私はカリスマ主婦なんかじゃない。私だってやりたいこと沢山あるんだから」 「弟の面倒ばっかり。お姉ちゃんなんて損ばかりする。長女の私だって甘えたい。」 「お勉強や習い事ばっかりはもうやだ。 僕だって遊びたい。」 「わおーん・わんわんっ。」    ~もうやめてやる~~~ 一家は目が覚めた。 お父さんは、会社に辞表を出した。 そして人の役にたつ介護の仕事に転職した。 営業マンの時より給与は安いが、やりがいが大きくてお父さんは大満足だった。 お母さんは、仕事を始めることにした。 料理が好きだったお母さんは、フードコーディネーターになった。 働きながら、お父さんと一緒に家事と子育てを協力しあった。 お姉ちゃんは、お父さんやお母さんに時々は甘えたりするようになった。 お父さんとお母さんは、どんなに仕事が忙しくて疲れて帰ってきても、子どもたちとスキンシップをとりながらゆっくり話を聞いてくれるので、お姉ちゃんは安心した。 末っ子長男は、塾や習い事は全てやめて、近所の友達と草野球をしたりして日が暮れるまで遊ぶようになった。 いつも泥だらけで帰ってきて、その日あった出来事を家族に楽しそうに話すようになった。 トイプードルは、きゅうくつなお洋服を着せられることもなくなり、この変化した神山家で、ゆったりとくつろいでいる。 理想の家族じゃない。 でも自分の思うがまま、あるがままでいられる家族。 理想の家庭なんてやめて正解。 とっても温かい家族がそこにはある。
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