ここからいなくなれ

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「…人形?」 「う、うん。これは、あーちゃんがかしてくれたんだけど…」  俺の目の前に人形を引っ張り出してきて、見せる。  それはたぶん「リカちゃん人形」という名前で呼ばれてるものだと思う。  まあ、男ならあまり身近じゃないほうが普通じゃなかろうか。 「これは、リカちゃん?」  少年がコクリとうなずく。 「ぼくは、リカちゃんにいろんなふくをきせるのがたのしいの。それに合わせてくつとかかみのかざりとか考えるのもたのしいし。あーちゃんの家にはふくとか小ものとかたっくさんあって、すごいたのしいんだよ。ないしょで今日だけかしてもらったの」  たしかに普通にかわいい服を着せてもらってる。  人形の服なんて、昔のアイドルが着てるステージ衣装みたいなものばっかだと思い込んでた。 「できたらね、ふくもじぶんでつくってみたいんだ。でも、ぜったいママがダメって言うに決まってる。男なのに女の子みたいなあそびしたら、おこられるよね…」  少年は、リカちゃんを両手でぎゅうっと握ってうつむいた。  指に力が入りすぎて、握ってるところが白くなってる。 「うちゅう人にかいぞうしてもらったら、もうリカちゃんがほしいとか、思わなくてすむんだよね」  じっと人形だけを見つめて、思いつめた固い表情をしてる。  見てるだけでこっちが切なくなってくる顔。  肩が少しふるえて、小さな背中がさらに小さく丸まる。  俺は、思わずその背中に右手を伸ばした。  ぽんと軽く、一度たたく。  少年に触れた瞬間、俺の背中がぞくっと震えた。  そして、たたいて触れた右手を通じて、少年の背中からどんどん俺の中に何かが流れ込んで来た。  なんだ、これ?  どうなってる!?  手をどかそうとしたけど、感電したときみたいに手が痺れて動きそうにない。  その間にもどんどん流れこんできてて、すごく気持ち悪い。  乗り物酔いみたいな感覚だろうか、頭がぐわんぐわんする。
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