ここからいなくなれ

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 ふと少年の背中を見ると、なんか向こうが透けて見えてきていた。 「えっ!」  まるで俺に何かを送り込んだ分だけ、少年の体が透明に近づいていくみたいだ。 「き、君は…」  力を振り絞って声をかけると、もうほとんど見えなくなった少年がこっちを振り返った。  さみしそうな瞳から涙がひと粒落ちて頬を伝う。  そして、その涙が地面に落ちた瞬間、少年の体はすっかり消えてなくなった。  ここは、夜の帳が下りきったマンション階段の踊り場。  気づくと俺は、そこにひとりきりで座りこんでた。  そうだ、思い出したんだ、いろんなことを。  小さい頃、俺はたいていのことは母さんにダメ出しされて、いつも落ち込んでた。  公園の遊具の使用禁止に始まり、お祭りなど出店での食べ物を禁止されたり、友達の家で何かをご馳走なることすらダメ、ダメ、ダメ。  それでも俺は、母さんが大好きだった。  ほとんど笑った顔なんて見たことない。  いつも眉を寄せた表情ばかりでも、母さんは俺の世界に絶対必要な存在のはずだったんだ。    でもある日、母さんは突然いなくなった。  それとき俺は小4で、とても寒い朝だった。  いつも母さんが寝ていたはずのベッドはもぬけの殻。ピンクのシーツがひんやり冷たい。  あまりのショックに事実を受け止められなかった俺は、それ以前の記憶がほとんどあいまいになって、母なんて元からいないことにしてしまったんだ。
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