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さっきの少年は、間違いなく小さい頃の俺。
このマンションにはもう20年住んでいて、よく母さんにダメダメ言われたあと、この最上階の踊り場に来て空を見上げてたっけ。
エイリアンソナーのことまでははっきり覚えてはいないけど、そんなこともあったかもしれない。
結局俺は、宇宙人に連れていってもらえたんだろうか。
その辺りの記憶は、あいまいのまま。
でも、少なくともそう思いこんでいたのかもしれない。
だからこんなに何にも興味が持てず、得意なことなんて何ひとつ持たない「いい子」に「かいぞう」されたワケだし。
ただ、リカちゃん人形のことは別。よく覚えてる。
というか今、はっきりと思い出した。
近くの高級マンションに住んでいたあーちゃんこと亜沙子という女の子が、リカちゃんやらバービーやらを何体も持っていて、それを目当てに彼女の家に毎日通ってた。
金持ちの家だと、比較的母さんが怒らなかったので気が楽というのもあった。
でも、俺が人形遊びが好きなんて言えば、まったく話は別だったはず。
別に人形そのものが好きだったわけではない。
服とか小物とか髪型とかを好きなように変えられるという遊びが、俺をとても熱狂させた。
亜沙子の家ではよく絵も描いていた記憶があって、いつもリカちゃんの新しい服を考えたりしてた。
当時の友達も茶化しつつ、うまいね、と褒めてくれたりして。
俺も得意になって、時間を忘れるほど頑張って絵を描いたもんだ。
思い出してみると、そのときが眩しく思える瞬間は、俺の人生にはない。
まだ青春と呼ぶには普通に早い時期だけど、俺にとっては何よりもきらきらした思い出に違いないように思う。
少なくとも俺は生まれて初めて、もう戻らないあの時間が恋しくてたまらないという感情を理解した。
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