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introduction
【本家に戻ってきてはくれないか】
数年ぶりに届いた実家からの手紙は要約すればそんな内容だった。
なにか確執があったわけじゃない。単に見聞を広めるために父とともに世界に出た。
といっても、僕自身にあの場所にいた記憶はないのでどんなところかも知らない。兄が二人いて、妹がひとりいるということしか知らない。
それと、魔法使いがたくさんいる街だってことくらい。
父は行けるなら行ってみるといい。と言った。
行けるならとはどういうことなのだろう?尋ねたが父は行けるなら問題ない。行けなかったらその時考えればいいさ、とはぐらかした。
街までの切符と、僅かながらの荷物を抱え、よく揺れる馬車に乗り込んだ。
詳しいことは分からなかったが、線路を引くにも道路をしくにも不安定な場所にあるという。一番馬が確実で安全な順路を行くのだと。
乗り合わせた人は思っていたよりも少なく、女性と親子?だけだった。
「あの、街ってどんなところですか」
女性はふ、と考えこみ首を横に傾げた。
「友人に会いに来ただけで、私も街のことは詳しく知らないの。どんなところなのかしらね」
楽しみだわ。と微笑んだ。
「うーんと。いろんなのがいるって聞いたことある」
声の方に顔を向けると少女は腕組みをして左右に揺れていた。
「わたしたちも何かを知ってるわけじゃない。けど、外よりも楽しいところだって聞いたよ」
ふふん、と自慢げに鼻を鳴らした。
みんなそこがどんな街なのか知らない。不可思議な街。
期待と不安を胸に抱いて、まぶたを落とした。
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