一話:出会い

2/2
前へ
/2ページ
次へ
 現実世界はこんなにも美しくない。  空気は美味しくない。     やっと来れた。  VRMMOの世界。待ちに待ったVRMMOの世界。  しかしログインが大分遅れてしまい、太陽は傾き始めていた。  現在、プレイヤー名:スージは草原に立っている。  周囲には誰一人としてプレイヤーはいない。  人がいないか、とりあえずスージは歩き始めた。  少し歩くと、林が見えてきた為、とりあえず入る。  どちらにしても今日の寝床が必要だ。  VRの世界でも野宿は嫌だ。スージは強く思っていたのが、その表情から読み取れた。  しばらく木々に囲まれていた林を歩くと、ふいに声が聞こえてくる。  それは女性の叫び声と男の怒鳴り声だ。  プレイヤーがいることに少しの安心感と同時に、その女性の状況に恐怖を抱いた。  すぐ傍の草木に隠れ、顔をひょっこり出し、確認する。  すると、放漫な胸の上に乗った紅いネックレスを光らせ、女性が走ってきた。  スージの目の前を通りすぎようとした途端、あろうことか女性は転んでしまった。  顔面からのフルダイビング。スージはその光景に目を見張った。 「うわぁ、痛そう」  鼻を真っ赤にした女性は立ち上がろうとすると、剣先が首筋に向けて立てられる。  男が追いつめたのだ。 「ふぅ散々手間かけさせやがって」 「えっ、ちょっちょっやめてくださいよ」  女性は立ち上がると、見事なカニ歩きをし、近くの木まで逃げる。 「何が待てだ。こんだけ逃げたんなら十分だろ」 「ほんと、やめてください。私何もしてないじゃないですか」 「違う! 山賊プレイをしてるんだ。ロールプレイング! してるしてないじゃないの!」 「そういうことか、RPGだから演じないといけないのね」 「あぁ、そういうことだ」  すると彼女は納得したと思ったら、みるみるうちに顔色が青ざめていった。 「ってことは、私殺されるの? 始まってそうそう殺されちゃうの?」 「あぁ、そういうことだ」  女性はやっと自分の状況に納得したのか、凄まじい悲鳴を上げた。 「ぎゃああああ、だれかぁあああ、だれかぁあああ、助けてぇぇ」  その凄まじい声に山賊は耳をふさいだ。  もちろん、スージもだ。  そして、スージは、大声で言ってしまうのだ。 「うるせぇええええええ」
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加