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『その奇妙な店ってさ、――――……』
その噂を耳にしたのは昨日だったか、いや、今朝かもしれない。
駅裏の大通りから一本中に入った中通りの、片側の歩道が遊歩道になった道の途中、細い脇道に入ったすぐの所にその店はあった。
店先に吊りさげられた看板には“雑貨店”の文字。
この脇道に面した壁に並ぶ窓からは店の中を伺う事が出来ず、私は一歩後ろに下がり、もう一度看板を見上げ耳にした噂を思いだした。
『その奇妙な店ってさ、店主が魔女らしいよ』
『えー?私は幽霊って聞いたけど』
そんなまさか。
店主が魔女か幽霊か、だと?
貴様ら実際にその店主を見もしないで、噂ばかり膨らませるな。
言えばいろいろメンドクサイので黙って聞き流しはしたが。
気になってここまで来てしまった。
雑貨店、か。
店自体は最近できたものではなさそうだが、よほど古いという感じにも見えない。
店の窓から中を覗こうとしたものの、窓には通りの景色が反射するばかりで、やはり中の様子は分からなかった。
魔女か幽霊か。
出来れば魔女の方であって欲しい。
幽霊なんてものは信じていないが、本当にいないと言いきれるわけではない。
幽霊は見たことはないが、店主が幽霊だった場合、もしかしたら私の第六感が何かを感じ取り“見えて”しまうかもしれないわけだ。
そうなったらどれだけ恐ろしい事か。
だから幽霊なんてものは信じていない。
……いや。
恐ろしいと思っているということは、本当のところ、幽霊というものを…………もういい。
とにかく、幽霊という得体の知れないものよりは、魔女という肩書きの“人間”がいて欲しいということ。
そう、そういうこと。
ぶつぶつと頭の中で言い訳の様な事を唱えながら、私は一歩踏み出した。
ドアにかかる小さな札には営業中の文字。
私は一度大きく息を吸い、止めたところでそっとドアを開けた。
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