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カラン、となった。
慌てて音の主を見上げ、シーッと人差し指を唇にあてる。それから店内に視線を落とし、ハッと息を止めた。
何だここは。
外観からは想像が出来ないくらいキラキラしている。
眩しくて、目を細めた。
てっきり何十年も前に使用されたような雑貨が並んでいるとばかり思っていたが、全く違った。
棚に並ぶのは色とりどりのガラスの玉。
窓から入った日の光が四方八方に反射して輝いている。
息をのんだまま固まっていたところで、店の奥から誰かが歩いてくる音がした。
もうこれ以上息は飲めない。
現れるのは魔女か幽霊か。
身動きできないでいる私の目に飛び込んできたのは、とても美しい女性の姿だった。
「あら、やっぱり」
耳に心地いい声色でそう言うと、その女性はふわりと微笑んで首をかしげた。
「いらっしゃい。お客さんが来る事なんてめったにないから、空耳かと思ったわ」
いらっしゃいということは、この女性が店主だろうか。
幻想的とさえ思えるキラキラした店内で、コレほど美しい女性が現れるとは、やはり幽霊か。
しかしその考えはまともじゃないと分かるのは、女性の手にとても現実的な、使い捨てハンディモップが握られていたから。
何度か瞬きを繰り返したら、女性がくすりと笑ったようだった。
「ゆっくりご覧になってね」
そう言うと、手にしたモップで棚の上を掃除し始める女性。
その後ろ姿に漸く大きく息を吐いた。
改めて店内をぐるっと見渡した。
色とりどりのガラス玉だと思っていたのは光の反射で、棚に並ぶのはキラキラした小物や置物たち。
女子が好きそうなモノがずらりと並んだ景色に頬が緩んだ。
「可愛いものがいっぱい並んでますね」
花柄が描かれた陶器の小物入れに目が止まり、女性に声をかけた。
「ふふっ、ありがとう。でもごめんなさいね。棚に並ぶ小物たちは、売り物じゃないのよ」
申し訳なさそうに眉を下げて、女性はモップで小物達を一撫でした。
「コレは私の大事な宝物たちなの。売り物はこっち」
大切そうに宝物を撫でたモップが、今度はポンポンと近くの木のイスを叩いた。
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