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「この古いイスとか、この古いテーブルとか、この古い棚とか。極めつけにもう動かない鳩時計とか!」
モップを勢いよく壁へ向ける。
それを一緒に目で追ってから女性に視線を戻すと、少し不貞腐れたような顔でため息を吐いたところだった。
「こんな古いものに囲まれてたら、私まで古くなりそうだわ」
“古い”をやたら強調した言い方をしているが、多分ここの売り物は見る人が見たら“素敵なアンティーク”なのではないかと思う。
私は目利きではないが、艶のあるテーブルの赤みの混じる茶色はとてもいいものに見えた。
「えっと……お姉さんはアンティーク、嫌いなんですか?」
“店長さん”と呼ぶのもなんだか違う気がして一応“お姉さん”と呼んでみれば、女性はじっとテーブルを見つめて小さくため息を吐いた。
そして不意に私に視線を移すと、柔らかく微笑んだ。
「ねぇ。どうせ他にお客さんも来ないし……お茶でも飲んで行かない?」
「えっ、あの」
「いいからいいから!たまに話し相手が欲しいのよね」
お姉さんはいそいそと店の奥に入って行くと、間もなくしてお盆にオシャレなカップやティーポッドを乗せて戻ってきた。
「紅茶、飲めるかしら?」
「はい、大丈夫です」
「ミルクとお砂糖はご自分でね」
言いながらカップを置くのは、今しがた売り物だと言っていたテーブルだ。
「ほら、座って座って」
促されたのもまた売り物のはずの“古い”イスだったが、他に座るところもなかったので遠慮しつつ腰掛けた。
「ねぇ、あなた、高校生?」
「……っ、あ、はい。そうです」
ズズッと紅茶を啜ったタイミングだったせいか、慌てて飲んで喉が熱い。
「高校生かぁ。いいなぁ。私もその頃に戻りたいわぁ」
宙を眺めるお姉さんの瞳は自分のその頃に飛んで行っているようだ。
「その制服、南高よね?」
「そうです」
「私もね、南高出身よ。でも私の通ってた頃と制服のデザインが違うわ」
「あ……、えっと、私が入学するタイミングで制服が変わったので、」
「でしょー!すーっごく可愛くなっちゃって!」
お姉さんは明るい口調とは裏腹に、切なそうな表情を作ると宙を眺めた。
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