奇妙な店

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* 次の日の放課後、親友の旭が私を呼んだ。 「アイアイ、今日用事あるー?」 「うん?用事はないが」 「駅前のカフェに付き合って!人数は多い方がいいから!」 旭は後ろに立っていた彼氏の腕を引きよせ、反対の手の人差し指を立てた。 「ジャンボパフェにチャレンジ!!」 言い放たれた言葉に顔が引きつる。 音無とともに引きずられ、玄関を出た。 旭のなんてことない話に耳を傾けながら、遊歩道へ差し掛かり、 あぁ、そう言えば、緑子さんにまた来るって言ったんだったなぁと視線を“雑貨店”がある方へ向ける。 細い脇道を覗きこむように振り返ったら、そこにあったはずの店が無くなっていた。 いや、正式に言うと、建物はあるのだが、看板が無くなっていた。 「……え?」 思わず足を止めた私に、旭たちが振り返った。 「アイアイ、どうしたのー?」 「いや、……そこに店があったはず……なんだが」 戸惑って揺れる視線をもう一度向けたが、そこにはやはり店が無かった。 じっと見つめていると突然ドアが開き、人が出てくる。 エプロンをつけたおばさんは、ドアを開いたままにすると箒で中から誇りを掃きだした。 「旭、ちょっと待ってて」 私は急いでエプロンのおばさんへと走り寄った。 「ここにあったお店……無くなったんですか?」 「え?」 中を覗き込んでも、店の中は空っぽだ。 おばさんは手を止めて首をかしげると中を覗き込み、もう一度首をかしげてから私を見上げた。 「お店なんてもうとうの昔になくなってるわよ?」 「……え?」 「ここのおばあさん、ずっと入院してたんだけれど、この間亡くなってねぇ」 おばさんが教えてくれた日付は、私がここにあった“雑貨店”を見つけた日だった。 「もう何年も入院生活していたらしいわよ」 「そう……ですか」 戻る足取りが重い。 つい昨日まで私はここに通っていたはずなのに、ソレが無いという。 もしかして、緑子さんは幽霊だったの? 顔が引きつった。 だけど、不思議と怖いとは思わなかった。 そして“愛する人が迎えに来たんだ”。 ふと浮かんだ考えに、今度は頬が緩む。 「ニヤけてどうしたのー?」 覗きこむ旭の目を覆いつつ、私はもう一度振り返り、 よかったですね。 心の中で、唱えた。
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