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次の日の放課後、親友の旭が私を呼んだ。
「アイアイ、今日用事あるー?」
「うん?用事はないが」
「駅前のカフェに付き合って!人数は多い方がいいから!」
旭は後ろに立っていた彼氏の腕を引きよせ、反対の手の人差し指を立てた。
「ジャンボパフェにチャレンジ!!」
言い放たれた言葉に顔が引きつる。
音無とともに引きずられ、玄関を出た。
旭のなんてことない話に耳を傾けながら、遊歩道へ差し掛かり、
あぁ、そう言えば、緑子さんにまた来るって言ったんだったなぁと視線を“雑貨店”がある方へ向ける。
細い脇道を覗きこむように振り返ったら、そこにあったはずの店が無くなっていた。
いや、正式に言うと、建物はあるのだが、看板が無くなっていた。
「……え?」
思わず足を止めた私に、旭たちが振り返った。
「アイアイ、どうしたのー?」
「いや、……そこに店があったはず……なんだが」
戸惑って揺れる視線をもう一度向けたが、そこにはやはり店が無かった。
じっと見つめていると突然ドアが開き、人が出てくる。
エプロンをつけたおばさんは、ドアを開いたままにすると箒で中から誇りを掃きだした。
「旭、ちょっと待ってて」
私は急いでエプロンのおばさんへと走り寄った。
「ここにあったお店……無くなったんですか?」
「え?」
中を覗き込んでも、店の中は空っぽだ。
おばさんは手を止めて首をかしげると中を覗き込み、もう一度首をかしげてから私を見上げた。
「お店なんてもうとうの昔になくなってるわよ?」
「……え?」
「ここのおばあさん、ずっと入院してたんだけれど、この間亡くなってねぇ」
おばさんが教えてくれた日付は、私がここにあった“雑貨店”を見つけた日だった。
「もう何年も入院生活していたらしいわよ」
「そう……ですか」
戻る足取りが重い。
つい昨日まで私はここに通っていたはずなのに、ソレが無いという。
もしかして、緑子さんは幽霊だったの?
顔が引きつった。
だけど、不思議と怖いとは思わなかった。
そして“愛する人が迎えに来たんだ”。
ふと浮かんだ考えに、今度は頬が緩む。
「ニヤけてどうしたのー?」
覗きこむ旭の目を覆いつつ、私はもう一度振り返り、
よかったですね。
心の中で、唱えた。
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