恋せよ乙女

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「ちょっとナッツってば、早くっ」 「待ってよ、浅海」 どさりと窓から鞄が降ってきた。 続いて女子生徒が一人。 宮下奈都(みやしたなつ)、十七歳。 県立夕ヶ浜高等学校二年。 親友の榎田浅海(えだあさみ)は、奈都を〈ナッツ〉と呼ぶ。 入学式で出会ってからずっとこの愛称だ。 そんな奈都は窓枠に足をかけ、麻美と二人、目下脱走真っ最中である。 グレーのチェックのプリーツスカートは、大きく脚を広げた格好ではパンツまで見えてしまっていたが、元々見せパンなので気にしない。 足踏みをしながら奈都を待っていた浅海の耳に、二時間目の始業を知らせるチャイムの音が高々と聞こえた。 「やばいよ、ナッツ」 「わかってるっ」 夕ヶ浜高校の校舎はL字型に建っている。 北東に開く正門から入ると、一階に職員室、二階からは各教科ごとの教室などがある北側校舎。 堂々と正門から抜け出すバカはいないだろうが、まあ、脱走は不可能だ。 と言って、南側グラウンドに面した東側の校舎も、職員室からは丸見え状態。 ならばと、奈都と浅海は東側の最南端にある美術室から抜け出そうとしていた。 運が良ければここが最短距離になる。 「ほらっ」 「サンキュ」 浅海の手を借り て地面に降り立った奈都は、 慌てて鞄を拾い上げると、浅海と二人猛ダッシュした。 「こらーっ! そこの二人ーっ! どこに行くんだーっ! 待ちなさーいっ!」
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