バスケト・アプレ

3/40
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
 でもこれも、全部バスケトからの受け売り。ぼくは何も知らない。ぼくの仲間も、みんな知らない。だってぼく達は、子供だから。  知っているのは大人だけ。  秘密の抜け道を潜り抜け、ようやっとおうち。見上げるのは大樹のような、それでいて鋼鉄のアパートメント。せり上がった根よろしくの階段を登ると、内部には配線が蔦のように張り巡らされていて、最終的に十三の扉に行き着く作りになっている。そうしてここが、ぼく達の住処――鳥の巣(バードネスト)。ぼくはやがて、ひとつの扉に行き着く。そっと聞き耳を立ててみると、みんなきゃっきゃと笑いあっている。その度に、どったんばったん一角が揺れる。ぼくはため息を吐いて帽子を被り直すと、ゆっくりとノブを捻った。 「あ、お帰りっ!」  早速ピァチが部屋の奥から顔を出し、栗色の巻き毛を振り乱しながら走り寄ってきた。「ねえねえアプレ! お目当てのものは見れた?」  ぼくは曖昧な微笑を浮かべたまま、静かに頭を振った。「……ううん。見れなかった」 「ふーん、そう……」ピァチは少しばかり残念そうな顔をして、すぐに話を変えた。「あ、また林檎! ほんっと好きね!」  そしてぼくの抱えていたひとつを取り、鼻を近づけて匂いを嗅いだ。「はあ、いい香り……! あ、みんな! アプレが帰ってきたよ!」  こうしてまた部屋の奥へばたばたと戻っていくピァチ。ぼくは靴を脱いでその後を追う。  残りの三人は、今日も互いに組み敷いて遊んでいた。 「んあ? おお、お帰り、アプレ」と一番上に乗っているナナが言う。「お帰りなさい、アプ」と、その下のメロが続く。パイは一番下なので、声を発することが出来ず、ひらひらと手のみを振った。 「うん。ただいま」  ぼくはとりあえず林檎をその辺に転がし、まっすぐに左隅の一角へ歩いていく。そして背伸びするように見上げ、微笑んで言った。「ただいま。バスケト」
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!