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でもこれも、全部バスケトからの受け売り。ぼくは何も知らない。ぼくの仲間も、みんな知らない。だってぼく達は、子供だから。
知っているのは大人だけ。
秘密の抜け道を潜り抜け、ようやっとおうち。見上げるのは大樹のような、それでいて鋼鉄のアパートメント。せり上がった根よろしくの階段を登ると、内部には配線が蔦のように張り巡らされていて、最終的に十三の扉に行き着く作りになっている。そうしてここが、ぼく達の住処――鳥の巣(バードネスト)。ぼくはやがて、ひとつの扉に行き着く。そっと聞き耳を立ててみると、みんなきゃっきゃと笑いあっている。その度に、どったんばったん一角が揺れる。ぼくはため息を吐いて帽子を被り直すと、ゆっくりとノブを捻った。
「あ、お帰りっ!」
早速ピァチが部屋の奥から顔を出し、栗色の巻き毛を振り乱しながら走り寄ってきた。「ねえねえアプレ! お目当てのものは見れた?」
ぼくは曖昧な微笑を浮かべたまま、静かに頭を振った。「……ううん。見れなかった」
「ふーん、そう……」ピァチは少しばかり残念そうな顔をして、すぐに話を変えた。「あ、また林檎! ほんっと好きね!」
そしてぼくの抱えていたひとつを取り、鼻を近づけて匂いを嗅いだ。「はあ、いい香り……! あ、みんな! アプレが帰ってきたよ!」
こうしてまた部屋の奥へばたばたと戻っていくピァチ。ぼくは靴を脱いでその後を追う。
残りの三人は、今日も互いに組み敷いて遊んでいた。
「んあ? おお、お帰り、アプレ」と一番上に乗っているナナが言う。「お帰りなさい、アプ」と、その下のメロが続く。パイは一番下なので、声を発することが出来ず、ひらひらと手のみを振った。
「うん。ただいま」
ぼくはとりあえず林檎をその辺に転がし、まっすぐに左隅の一角へ歩いていく。そして背伸びするように見上げ、微笑んで言った。「ただいま。バスケト」
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