バスケト・アプレ

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 うんうんとナナが頷く。「まああたし達が見れたのだって殆ど偶然みたいなものだしな。アプレもきっと見れるよ、なあ、メロ」 「ええ、そうね」とメロが同意した。お上品に、口元を林檎で隠しながら。「慌てないで大丈夫よ、アプ。まだ、時間はあるもの」  ぼくは林檎に口を付け、何とはなしに窓の外を見る。窓の外は、やっぱり夕暮れ。先程と変わらない夕暮れ。この区域から夜が失われたのは、三日前のこと。度重なる地震。地殻変動。見るからに大きくなっていく太陽。このようにして夕暮れは朝焼けとなり、誰そ彼は、彼は誰と同じになった。それはとても最後にはお誂え向きなことのように思えて、それからナナとメロは、立て続けに“それ”を見た。それまで高慢ちきだったナナは、爾来とても優しくなった。それまで泣き虫だったメロも、何だかちょっと透過するようになった。  ピァチがようやくぼくの髪を結い終わり、隣、ではなくぼくの膝に座る。そうして雪だるまをシャリシャリほおばっている。その様子を見つめながら、考える。メロはそう言うけれど、ぼく達の砂時計は、もう芯だけを残した林檎。現にぼく達の身体は、今も成長を止めないでいる。もし仮に時間が残っていれば、ぼく達もまた大きくなってしまうだろう。  彼らのような、大人になってしまうだろう。  ぼく達は食事を終え、皆で隣の部屋に移る。そこは寝室兼玩具箱で、沢山のぬいぐるみやブリキの玩具が至る所に散乱している。それらも全部、摩天楼のあの人がぼく達に振りまいたものだ。  ぼく達は今日もそれぞれにお気に入りの玩具を抱え、皆でひとかたまりになって眠る。お布団はないけれど、ぼくは颯爽と下着姿になって、そう、代わりにぼく達子供には、大人にはないものが付いていたり。  それが、この背中に生えている羽。しかもこの羽は思考と完全にリンクしていて、邪魔な時は背中に引っ込んでいるし、こうして眠る時などは、ぐんぐんと広がって、温かいお布団代わりになる。  そしてそれが、ぼく達の、永遠の子供たる証明。  五つの翼が寄り添って、それはまるで雲の上。周りは玩具で埋め尽くされて、代わりにぼくらは、夢を、持てなかったりする。
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