バスケト・アプレ

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 ☆ ☆ ☆  「ああ、どこにいるのかと思ったら、こんなところに隠れていたのか」  ある時彼はこう告げるなり、ほっと溜め息を吐いた。  その頃のぼく達は、今よりもずっとずっと小さかった。だからバネの失ったメトロノームみたいに、うなだれるしかなかった――そんな時に、彼は颯爽と現れた。それは、ぼく達が摩天楼を理不尽に追われて、そのうちに日が落ちてきて、とりあえず屋根がある場所を見つけたのはよいけれど、その先がなくて、本当に途方に暮れていた時だった。  彼はぼく達をゆっくりと睥睨すると、感心したように口を開いた。「ふむ、よく、似ている。ああ、空。あるだろう? 空にはね、昔、ちょうど君達のような翼持つ覇者が飛んでいたのだよ」  ぼく達はいまだに何が起こっているのかわからなくて、彼をただ茫然と眺めているしかなかった。 「ああ、そんな顔するなよ」彼が地べたに腰を下ろす。「君達はいきなり追い出されたんだ。びっくりもするさ。ふん――metropolis.それは彼らの楽園にして終着駅。しかし君達、彼らを決して責めてはいけない。責めるなら、このわたしを責めるべきだ。何しろ彼らにそう吹き込んだのは、ふふん、このわたしなのだからね」 「どうしてそんな酷いことするんですか?」  それに対して一番最初に口を開いたのは、なんとぼくだった。でも、ぼくは間違ってないと思う。ぼく達は、摩天楼から、本当にいきなり追い出された。朝には栄養満点のサンドイッチと甘いジュースを。お昼には玩具と生活用品を。夜には果物をあげると言っていたけれど、こんな酷い話ってない。よくわからないけれど、大きな人は、小さな人を守らなければならないと思う。ちょうどぼくがこうして、ぼくよりもずっと小さくて、知らない桃色のほっぺた持つ子が、追い出されたこともわからなくて、お父さんとお母さんをずっと探していて、何だか見るに堪えなくて、さっきから抱っこしてあげているように。 「ふむ」と彼は唸った。「君、名前は?」
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