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「消すと失う、の何処が違うのです?」
私は首を捻った。
「催眠術をご存知ですか? かかりやすい人、かかりにくい人。様々にいらっしゃいますが、かかりにくい人もかからない訳ではないのです。私は催眠術に長けています。その催眠術で忘れたい記憶を奥に埋没させます。よく、脳の引き出し、なんて表現がありますでしょう? それで言えば、一番下の引き出しの奥……普段開けない所に仕舞うようなものです。普段は、開けない訳ですから失っているのと変わりません。忘れるだけでは思い出しますが、催眠術で押し込んだ記憶は、無理やり開けない限り、意識に出て来ませんから」
婦人の説明に、なんとなく胡散臭いものを感じずにはいられないが、神様から力を貰って……とか、魔法が使えます。などと言われるより、よっぽど納得が出来る。
「催眠術は……難しいものですか?」
信じた、というよりは突拍子もないアイディアに聞こえるが、まぁマトモな範囲の答えに、常識的に考えて頷けた、という方が近い。
そして納得出来れば、試してみたい、と思うくらいには、私が抱えている記憶は……重い。消せなくてもいい。少しでもこの重みから抜け出せるなら、試してみたかった。
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