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「また次回で良いですか?」
私は背中を伝う冷や汗が気付かれなければ良い、と思いながら婦人を見た。
「分かりました。ではまた今度。お待ちしております」
婦人は、頭を下げて、私はこの家を出た。出てから振り返ると、明るい普通の家に見えた家が、影のある暗い、廃墟のような雰囲気の家に見えて、私は目を擦った。良く良く見れば、明るい普通の家だが、一瞬見えた廃墟のような雰囲気が、見間違いに思えず、私は一刻も早く家から遠ざかりたかった。
……例え、どんなに忘れたい・失くしたい・消したい記憶でも、それを抱えて生きる事にしよう。それを放棄しようとするから、なんだか解らない、あんな怪しい店に行こうとするのだから。
足を止めず、過去を思い出していた。
私は中学時代、イジメに遭っていた同級生を知りながら、見て見ぬフリをしていた。恐らく、多くの同級生がそうしていて。結果、イジメに遭っていた同級生は、自ら命を絶った。私はそれを後悔し、以降、人の顔色を窺って生活することを覚えた。
私が消したい記憶だ。
だが、それを放棄したら、また同じことを繰り返してしまうかもしれない。……やはり、催眠術など頼らなくて正解だった。
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