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しかし、所詮は想像の域でしかない。どうしても現実を知りたくなってしまう。その誘惑に耐え切れず、私はおそるおそるその一軒家へ近付いた。
カチャリ。
玄関の前に立った事を見透かされたように、ドアが開き、私は声も出せずに硬直してしまう。
「いらっしゃい」
扉の向こうで柔和な笑顔の女性が微笑んでいた。
「えっ?」
「お待ちしていましたよ」
私が来る事を、待っていた。そう目が語っている。何故、私が来ると解ったのだろう? と首を捻った。
「何故?」
私の疑問をきちんと理解したように女性は口を開いた。
「窓からあなたがこちらをずっと窺っているのに気付いていましたから。ここは繁華街の外れ。ここに用事が無い方が、何時間もこちらを窺う事などしませんよ」
言われてみれば、納得出来る。用事が無いのにずっと窺っている私は、端からみれば、十分不審者だ。照れ隠しに頭を掻いて、招いてくれた女主人の後に続き、中へ入る。想像では、お香が焚かれたり、暗幕が垂れ下がったり、室内の灯は、ランプかロウソクで。ソファーに猫というオプションだったのだが。
お香も無ければ暗幕も無い。窓はレースのカーテンだし、昼間なら太陽の光が柔らかく射し込む部屋のようだ。ソファーは有るが、猫も居ない。はっきり言えば、普通の人が暮らす一般的な内装だった。
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