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こう言っては、なんだが。至極残念だ。
「普通であるから良いのです。あからさまに怪しければ、信用などされません」
まるで心を読んだか、のような発言に、私は驚き、唖然とした。
「ふふふ。さて、あなた様が失くしたい事は、何でしょうか?」
女主人はイタズラが成功したかのような微笑みを浮かべて、私に言う。だが。私は客では無い。生憎。何しろ、興味本位だ。申し訳なく思いながら、その旨を打ち明ければ、女主人は淡々と言葉を紡いだ。
「あなた様がそのつもりだったとしても、本当に興味本位だけでは無いはずです。うちの店は大々的な宣伝もしておりませんし、ブログやホームページがあるわけではない。何処からか情報を仕入れるにしても、曖昧な噂程度のはず。ということは、うちの店を偶然見つけたとしても、あなた様の胸の内側には、忘れたい・失くしたい。そのような何かがあるはずです。だからこそ、うちの店を探す事が出来たわけですから」
微笑みを一時も忘れない女主人が、とても良い人で、それでいて少し怖い人に思えた。こんなに簡単に、私の奥を見透かしてくる。当たり障りのない事を言っていたはずだ。
……確かに私には、失いたいものがある。
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