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「もちろん、そのような方もいらっしゃいますから」
つまり、私だけではない、ということ。やはりそういう人もいるのだ、と知って目を瞠った。
「あなたは、記憶を消せる、と?」
私は、まさか。という思いで婦人を見る。婦人は笑みを深めて、緩やかに首を振った。……それもそうか。神様でも無い限り、記憶を消せるわけがない。神様を頼らないなら、病気の可能性が疑わしい。
つまり、気軽に記憶を消せるわけがない。私は自分の愚かさにため息を吐いた。
「そうですよね。簡単に記憶が消せるわけがないですよね」
「記憶を消すわけではないですよ」
婦人が放った言葉は、消すわけではない。でも。……そんな言い方だった。記憶を消すわけじゃない。では、何なら出来るというのか。
「では、どうするのですか? 」
私は含みがあるような言葉に問いかけた。もし、何らかの形で消せるというのなら、お手並み拝見だな。くらいの考えでいる方がいい。下手に過度な期待を持つと、違った後、虚無感に襲われてしまう。失望にも襲われるだろう。
だから、生半可な気持ちで尋ねてはいけない。
そういったことを念頭に置いて尋ねた。
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