仕事

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店主の稲光は、差し出す前に左手を掬い上げた。 少し驚いているところを、ニヤァと不敵に笑う。 掌を両手で撫でながら、細い双眸をじわりと広げた。 白内障を患っているのか、顕になった瞳の中心は真っ白に濁っている。 ───アータ、左利きでしょう?……長年の勘ですよ、フフ。 ───ああ、この目?見えるかって?これもね。……長年の勘って言っときましょうかねぇ。 ───モノグサなものでね、八幡さま以外にはほとんど出掛けないものでねぇ。家はこの通り狭いものですし、勝手もわかる。わざわざ治療するこたぁないんですよ。 ───仕事?さっき言ったでしょ?長年の勘だって。曖昧なようで、それが一番重要なんですよ。
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