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ドアの前をすり抜けて、主人は横の障子をくぐる。
障子の向こうには掃き出しのガラス戸があったが、隣との境にあたるブロック塀がそこまで迫っていて、明かり取りになっていない。
薄暗いというよりは、夜に近いほど暗い廊下を主人は迷いなく歩いていった。
障子から廊下へ頭を出してみると、まるで鰻の寝床だ。
先の方は暗くて見えない。
やがて足音がして、主人は盆をかかげて戻ってきた。
───イヤですよ、男の独り暮らしですから、あまり見ないでやって下さい。
───アータの仕事は、ウチの仕事の取材でしょ……さぁ、どうぞ。甘いのはお好きかね。ちょうどそこの八幡さまのお饅頭があってねぇ。
───ほら、参道にある茶屋の……そう、湊屋さん。アタシはあそこのお饅頭に目がなくてねぇ。参拝する時は必ず買ってくるんですよ。
───アータ、運がいいねぇ。いや、医者に甘いものはほどほどにって言われてるもんでね。逆に言やぁ参拝の時にしか買わないんですよ。いや、運がいい。
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