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泣き止んでから数分後。
呼吸が整ってきたのを見計らって、安浦さんは私をソファへ座らせた。
「とりあえず、何か飲もうか。明華、ビール飲む?」
「うん、飲む」
手早く注文して、また隣に戻ってきてくれる。
一緒に煙草に火をつけて、1、2口吸ったところで、私は事情を細かく説明する。
安浦さんは、私がデリヘルを始めた当初、プレイ云々ではなく、一目見て私を気に入ってくれた上客だった。
「一緒に居られるだけで、俺は幸せだよ」
そのうちに私は、そう言ってくれる彼をお客として見れなくなった。
まるで、私に旦那ができたように感じ始めた。
だから、本当は禁止されている仕事中のセックスも、連絡先の交換もしたし、本名も教えた。
「俺は美琴…じゃない、明華が幸せならそれでいい。明華が喜んでくれればそれでいいんだよ」
年の差にして、約30歳。
普通だったら成立しない。普通だったら許されない。
だけど私は、どんどん彼に惹かれていった。
「今すぐ逢いたいよ、明華」
「私も逢いたい。大好き」
そんなLINEをする回数が、日に日にどんどん増えて行った。
ある日、彼に私の現状を洗いざらい話したことがある。
借金が100万くらいあること。
生活費と返済のために、デリヘルをやっていること。
旦那はいない、彼氏がいること。
その彼氏とは、ずいぶん前から冷め切っていること。
「大丈夫。俺はそんなマイナスのところも含めて、明華の全部が大好きだから」
長いこと言われていなかった言葉だった。
全てを認めてもらえた気がした。全てを許されたような気さえした。
「私は、生きていてもいいんだ」
至極単純だけど、そう言ってもらえてる気がした。
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