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「ただいま~」
朝よりも数段低い声で、由紀人が帰宅を告げる。
「おかえり。ご飯出来てるよ」
「ありがとう。でも先にシャワー浴びてくるね」
リビングのテーブルの上には、もうお皿が並べられている。
…ご飯が冷めちゃうとか、そういうことは気にしてくれないんだね。
彼が浴室に入ったことを見届けて、ケータイを開く。
美琴のお仕事の日程を決めないと。
空いている日、空いている時間で出勤願いをLINEで送る。
すぐに既読がつき、「了解」と返事が来る。
由紀人、少しだけでいいから、考えた方がいいよ。
フリーターの私が、あなたからお金を受け取っていない状態で、
なぜ普通の暮らしができているのか?
なぜ家賃5万円のところに住めているのか?
なぜあなたに支払いを求めないのか?
あなたに隠していることがたくさんあるからだよ。
LINEのトークルームを削除して、ご飯を温め直す。
きっともうすぐ出てくるんだろう。
シャワーを浴び終えた由紀人は、髪が濡れた状態のまま、
部屋着を着てテレビをつける。
「はい、お待たせ。」
「うん、ありがとう。いただきます」
「いただきます…」
テレビは、私の背中側。
愉快な笑い声が前後両方から聞こえてくる。
…残念ながら、会話はない。
「今日仕事どうだった?」
「明日は仕事なの?」
「私はね、お昼からバイトだよ」
「今度の日曜日、どこか出かけようか」
以前は、そんな会話をよく繰り返していた。
けど、今はもうしない。
なぜでしょう?
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