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「由紀人」
「はい?」
「私、出て行くね。この家解約することにした。由紀人とも別れるから。」
「え……何、どういうこと?」
「…。別れる。さよなら。どうしてか知りたければ自分の胸に聞いてみなよ」
由紀人の大きい目が、さらに見開かれる。
そんなことを言われると思っていなかったらしい。
「え、何で突然そんなこと言い出すわけ?俺が悪いの?」
「そう思いたくないなら勝手にすれば?とにかく、さよなら」
溢れ出そうになる涙をぐっと堪えて、
由紀人の制止を振り払って車に乗る。
車の外で、まるでこの世の終わりのような顔をする由紀人。
きっと、いつもの私もあんな顔をしていたんだろう。
何か外で喋っているので、指が入るくらいの隙間だけ
窓を開けてみる。
「待てって言ってんのが聞こえねぇのかよ!?」
「何?」
「…なぁ、俺が悪いなら直すからさ?別れるとか言うなよ… 俺はどこに帰ればいいんだよ?」
「実家に帰れば?」
由紀人が実家にいる自分の父と不仲なのは知っている。
家にいれば、月に一回のペースで大喧嘩だそうだ。
が、もうそんなことは知らない。
だって、この人はもう彼氏ではないのだから。
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