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「ここ出て行って、どうするんの? どこ行くつもり?」
「どこだっていいでしょ」
冷たく言い放って、車を発進させる。
実はもう、行き先は決まっているんだ。
後ろから車で追いかけてこないことを確認して、コンビニに立ち寄る。
電話を掛けた先は、
「もしもし? 明華、どうしたの?」
少し年の多い、男の人の声。
私の唯一のパトロンと呼ばれる人。
声を聞いた瞬間、少しホッとする。
ついでに涙も出そうになったが、まだダメだと耐えて話を始める。
彼氏と別れた事情を説明すると、いつものホテルで待ち合わせをしようということになった。
隣の市まで車を走らせること、1時間。
「明華~、逢いたかったよ~!」
私を見つけた途端に、嬉しそうな笑顔で抱きついてくるこの人。
名前を、安浦 衛(やすうら まもる)という。
「今まで辛かったね。大丈夫?」
「うん…。安浦さんに逢ったら安心した」
少し笑顔でそう返すと、彼からキスが降ってくる。
優しくて、暖かくて、愛があるキス。
由紀人にされる、義務的な…業務的なキスではない。
「んっ…」
少し舌を絡めて、すぐに離れていく。
すると彼は、いつもしている眼鏡を取って、真剣な眼差しで私を見つめ下ろした。
「そんな切なそうな顔するなよ、明華。もう大丈夫だから」
大丈夫。
誰でも言える言葉だけど、その言葉には私を大切に思ってくれている心が詰まっていた。
それが感じ取れてしまった瞬間、我慢していた涙が一気に流れ出る。
安浦さんは何も言わずに、ただ抱き締めて、頭を撫でてくれた。
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