第1章 昭環43年 嵐の夜……

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「峯崎、今は愚痴を言ってる状況じゃない。黙ってその工員を早く缶詰にするんだ」 「でもこの『軍需工場工員 缶詰』ってラベリング。何すか?マジ、っぱねえっすけど」  俺は峯崎を無視した。一刻も早く麓へ降りてこの谷間から離れなければ、土石流でダイナごと飲み込まれかねないからだった。 「マジ、世界の日本。軍需工場、っぱねえな」  さすがに対向車などは無く、二車線の道路の幅をめいっぱい使ってトヨタ・ダイナを疾走させた。事故よりも崩落が怖かった。ヘッドライトが鬱蒼とした森の木立を、まるで昔の映写機のようなコマ送りのように照らしていた。
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