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人間、トラックに轢かれれば大抵死ぬ。残念ながら
視界は血みどろ、世界が赤く見える。甲高い音が辺り一面に轟いている。やけに鼓動が高鳴って聞こえ、全身を砕くような痛みはなぜか感じず。ただただ、寒い。眠い。暗い。明滅した頭の中は、"死"ってものがゆらゆらと漂っていた
あれ、なんで轢かれたんだっけ。それさえうまく思い出せやしない。まぁいいや、思い出したって直に死ぬのだろうから
瞼を閉じる。どうも怖くない。むしろこの感覚がなぜか心地よい。おかしいな。うまく思い出せないな
唐突に、ふっ、と。音がすべて消えた。瞼越しの光もすっかり消えた。これは、と俺は悟る。あ、死んだな。意外とあっさりで、苦しみもなかった。ラッキー
しかし、死んでも意識があるってなんなの?思ってたのとは違うな
俺はむくりと起き上がる。目をこすり、眠たげにゆっくりと、瞼を開けた
──そこには暗闇。スポットライトの当たったスクランブル交差点。そして、その交差した地点に小さな喫茶店。まるでセレブな街にでもありそうなこじゃれた喫茶店が、ぽつりと佇んでいた
うーん、よく分からないです。分かるわけないだろうこんなの。なにこれ、なにそれ
煩雑した脳内を整理しようと必死になっていると、店のドアが静かに開き、中から、箒とチリトリを持った女性が現れた。その女性はよくある喫茶の制服を身に纏い、ポニーテールで端正な顔の、貧乳。死んだはずの俺だが、生きている人間を見て少しほっとしてしまった。この状況で唯一わけの分かりそうなものを見つけた安堵感というか
彼女は鼻歌を唄いながら、ゴミ1つさえない店の前を掃除しはじめた。玄関前を数回はたいて、ふぅと腰に手を当てる。その瞬間、彼女とがっちり目があった
彼女は少しだけきょとんと呆けた。しかし、2、3回のまばたきをして、ふっ、と息をし、にっこりと笑った
「いらっしゃいませ、スクランブル交差店へ」
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