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言われるがまま、導かれるがままに店内に連行される。おかしいな、轢かれたはずなのに痛みもなく動ける。いや、この際"おかしい"という言葉はもはや使うべきではないだろう、やめた。全部おかしいもん
店内は明るく、モダン調。観葉植物がキレイに並び、そこらでワイワイと数人のお客さんが話に華を咲かせていた
そんな一般的な風景ながら、いや、すべてが非現実的であった。お客さんがみんな素っ頓狂な服装、言動をしている
右を見る。手前のテーブル席に座る人は、中世ヨーロッパの鎧を装備し、向かいの人に対してやぁやぁと雑談を持ちかけているようである。その向かいの人はサムライのような格好をし、イスの上であぐらを組んで、静かにこくりこくりと相槌を打つのみであった
前を見る。カウンター席に座る茶色のスーツを着た人は、紙にひたすらガリガリと何かを書いていて留まることを知らず。その横にいる小さな女の子は、その紙を見てうんうんと頷いている。絶対分かってないだろ
左を見る。ソファ席で横たわるゴツい人はテーブルに厳ついマグナム銃を置き爆睡していて、その向かいの人は長い白髪を後ろで束ねていて、テーブルの下から大いびきのお向かいを蹴飛ばしていた
なんじゃこりゃ。感想はそれのみである
俺の想いも露知らず、店員はにっこにっこしながら俺をカウンター席に無理やり座らせる。店員はささっとカウンターにつき、バンっとカウンターを叩いた
「なに飲みます!?」
そう言われても。返答に悩んでいると、隣の茶色スーツの客が紙から目も離さず、ぼそりと店員に呟いた
「ラドラーでも恵んでやりなさい」
店員は、はぁ、と応答し、カウンターの下からビンと冷えたコップを取り出す。栓をキュポンと開け、トクトクとコップに注ぐ。泡が出てる、ということはお酒か?
店員はそれを私に差し出し、にっこりと笑う
「ウェルカムドリンクです」
…はぁ。どう反応すればいいか。とりあえず、感謝だけでもしよう
「ありがとう…えっと、スーツの方も。おいしくいただきます」
スーツの方はそれを聞いてピタッとペンを止め、俺を見る。え、えっ、怒らせちゃった?
いや、違うようだ。立派なヒゲを撫でながら、ふんふんと感心しているようだ
「久しぶりに礼儀ある人間と逢った気がするよ」
こりゃあどうも。なに、ここにいる人間はそんなに無礼なのばかりなの?怖くなってきてしまった
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