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「ありがとう・・・。真咲ありがとう・・。」
嗚咽を漏らしながら感極まるハル。
「ほら、泣かないで。」
そんなハルを優しく抱きしめる真咲。
時刻は十四時五十分。
残りは十分になってしまった。
二人は愛を確かめるように長い間抱きしめあう。
「真咲、目を瞑って。良いっていうまで開けちゃダメだよ。」
「え、その間に消えるとかはないよね?」
「そんなことしないから。早く時間がない。」
真咲は目を閉じた。ハルの細い手が首に触れる。
「ハイ、開けていいよ。」
真咲の首の元に桜の形をしたネックレスがついていた。
「あのね、私が店を出るときにオーナーがお金を持たせてくれていたの。そのお金は自分の本当に愛する人だったら使えって言ってね。桜は春に咲くでしょ。
真咲にぴったりだと思って。」
照れくさそうに話すハル。
真咲はあの老人がそんなことまで考えていたことが衝撃で、また嬉しく思った。
「ありがとう。一生大切にする。」
ハルを引き寄せ唇に自分の唇を重ねた。
時刻は十三時になった。
「時間だね。真咲、愛してくれてありがとう。私に幸せを、たくさんの言葉をありがとう。
私は誰よりも幸せ者だよ。」
ハルの体が花びらとなって風に乗っていく。
「僕こそありがとう。愛を教えてくれて、ありがとう。」
涙で視界がぼやける。袖でぬぐい、花びらになっていくハルの体を抱きしめる。
「また会える日まで。さようなら。」
そういってハルの体はすべて花びらになって空へと飛んで行った。
「うん、また会える日まで。さようなら。」
ネックレスを強く握り呟き、地面に落ちた桜の花びらを一枚手に取った。
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