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【6月1日午前9時】
「高森君さぁ、ちょっとそのワイシャツ派手じゃないか?」
4月に中堅IT企業へ入社したばかりの高森海人(たかもりかいと)が出勤するや否や、3年先輩の下鳥淳平(しもとりじゅんぺい)が指摘した。ダークスーツにピンクのワイシャツ、そのシャツにはピカピカと光るグリーンの無地のネクタイを結んでいる。
「今日は芝西銀行へご挨拶だろ?銀行に行く時は白シャツで、って言わなかったっけ?」
「本当にすみません。でも俺、白いワイシャツ持ってません」
「え?白いワイシャツ持ってねぇの?」
「はい」
「就活の時のワイシャツはどうしたの?」
「実家に置いたままです」
「会社で着ると思わなかったってこと?」
「白いワイシャツは、俺の顔に合わないというか」
「困ったなぁ。お前、自分の首と袖のサイズ知ってっか?」
「たぶん39と84センチだったと思います」
「そか、ピッタリだ!ちょっと待ってろ」
淳平は自分のロッカーからクリーニング済みの白シャツを持ってきた。
「早くこれに着替えろ。会議室空いてんだろ」
「はい」
「ネクタイもこれにしろ」
と言って、淳平はロッカーにあった紺とシルバーのレジメンタルのネクタイを海人に手渡した。
「下鳥先輩、どうしてワイシャツとかネクタイがロッカーに入ってるんですか?」
「そりゃお前、仕事が徹夜になった時とか、飲み会で終電逃した時のために、いつも入れてるんだよ」
「へぇえ。準備がいいんですね」
「いいから、早く着替えろ」
・・・
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