第1幕

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哺乳類の一生の総心拍数は20~23億回で一定だということを聞いたことがある。 ネズミの心拍数は毎分約600回だから、寿命は約4年。それに対して、ゾウの心拍数は毎分約40回だから、寿命は約70年。 人間の寿命は食生活や医療の進歩により延びているから、この計算式には当てはまらないが、心拍数が多ければ多いほど死亡率が増加するという調査結果もあるとか。 だとしたら、高校に入学してからの俺の寿命は急速に縮んでいる。 正確に言えば、芹香(せりか)と同じクラスになって、同じ演劇部に入ってから。 毎日顔を合わせているのに、朝、教室で芹香を見れば、俺の心拍数は一気に跳ね上がる。 そのクリクリとした大きな瞳も、ふっくらとした柔らかそうな唇も、俺の死期を早めているとしか思えない。 これはマズい。 ただでさえ女の方が長生きなのに、せっかく両想いになれたとしても俺の方が芹香よりも先に死んでしまったら、他の男に取られてしまう。 検索ワード『心拍数 寿命』。 ヒット数は35万以上あった。 毎日、芹香を見てドキドキしていても、早死にしないで済む方法を探そうとした。 運動は心拍数を増加させるから、寿命を縮めることになるんじゃないかという記事が目に留まる。 ふむふむ。 運動によって心肺機能を鍛えることで安静時の心拍数は徐々に下がるから、寿命が延びることにつながるらしい。 恋のドキドキでも心肺機能は鍛えられるだろうか。 そんなことを考えながら、他の検索結果を目で追っていたら……。 『あなたの心拍数を買い取ります!』 そんな広告が目に飛び込んできた。 心拍数を買い取る? いやいや、無理だろ。 もしも可能だとしても、買い取ってどうするっていうんだ?
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