第3幕

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佐久間さんの店に行った翌日。 俺は少し早めに登校して、学校の周りを走った。 買い取ってもらっても心拍数は減らないとわかったから、心肺機能を鍛えることにしたのだ。 「おはよう。伊月、どうしたの?」 校門の前でバッタリ芹香と出くわしてしまい、荒い呼吸を無理矢理抑え込んだ。 「本番までに体力つけておこうと思ってさ」 適当な言い訳をしたが、実際、演劇は見た目よりも結構ハードだ。部活でだってランニングや腹筋運動をする。 「そっか。私も一緒に走ろうかな」 トロ臭い芹香と一緒に走ったら、転ぶんじゃないか、車に轢かれるんじゃないかと気が気じゃないだろう。 でも、そんな2人きりの時間が持てたら最高だな。 どんなにドキドキしたとしても。 「じゃあ、明日から一緒に走ろうか。アニソンでも歌いながら」 「ふふ。楽しそう」 芹香の笑顔が眩しくて、俺は視線を外した。 「伊月? そういえば昨日の帰り……」 「え?」 言いかけてやめた芹香の顔を覗き込んだ。 「ううん。なんでもない」 一瞬、寂しそうな顔をした芹香が、昨日俺と佐久間さんを見かけて2人の仲を誤解したことを知るのは、ずっと後の話。 「今日はいよいよラストまでやるね」 芹香の言葉にドキッとした。 そうだ。今日はラストシーンまで練習することになっている。 つまり、芹香と手を繋ぐということだ。 「ああ。頑張ろうな」 俺に限って言えば、演技を頑張るんじゃない。 平常心を保つこと。……至難の業だろうけど。 今日も朝から俺の心拍数は急上昇。 でも、いつか芹香を振り向かせることが出来たなら。 その時は2人の鼓動をシンクロさせよう。 この心拍が止まるその日まで。 END
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