65人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女の言葉を何とか理解しようとして、つい眉間に皺が寄ってしまう。
「つまり、セラピーみたいなものですか?」
「全然違います。そういうことを期待されても困るんです。私はセラピストじゃなくて、シナリオライターだから」
「はあ!?」
俺は彼女の顔を穴が開くほど見つめた。
「私がお客様の話を聞きたいのは、シナリオのネタにしたいからです。だから、私に話したからってお客様の心拍数が減るわけじゃありません」
「減らないんですか!?」
ガッカリだ。
心拍数が減らないんじゃ意味がない。寿命は延びないってことだ。
「まあ、私に話すことですっきりして、結果的に心拍数の増加が抑えられるということはあるかもしれませんけど。それはあくまでもお客様の気の持ちようですから」
そりゃそうだ。この人はただのシナリオライターなんだから。
「あの……そんな話がネタになるんですか?」
てか、俺が客第一号だったりして。
そう思ったのに、彼女の答えは意外だった。
「この前のお客さんの話は良かったですよ、ちょっと犯罪絡みで。2時間ドラマになりそうなぐらい。犯人の心情が克明に描けて我ながらいい出来だったんで、ちょっと大きな賞を狙ってみました」
テヘッと照れた笑いを浮かべてるけど、犯罪絡みって!?
犯人の懺悔を聞いたってことか?
でもって、それを警察に通報せずにシナリオにしてしまったと?
何となく。
この女とは関わらない方がいいと頭のどこかで警鐘が鳴っている気がする。
シナリオのためなら、倫理も市民の義務もどうでもいいと思っている女だ。きっと。
「あー、残念ながら俺の話はネタになりそうもないです。ただの恋愛話で」
すっかり逃げ腰の俺はそう言ってソファーから腰を浮かせた。
最初のコメントを投稿しよう!