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その後は、演劇部あるある話で盛り上がり、名物教師の話で盛り上がり。
最後に買取金をもらった時は、申し訳ないぐらいだった。
他愛のないおしゃべりをしただけなのに。
「伊月くん。人生の先輩としてアドバイスしてもいい?」
店の戸締りをしながら、そんなことを言い出した佐久間さんに吹き出しそうになった。
人生の先輩というには危なっかしい女だ。
でも、恋人がいるんだから恋愛の先輩であることは間違いないだろう。
「あのね。恋をすると誰だってドキドキして胸が苦しくなるのよ。私だってそう。でも、まだ死んでないし、たぶん長生きできると思う。うちのおじいちゃんとおばあちゃんは大恋愛の末に結ばれたんだけど、70過ぎてもラブラブでピンピンしてる。だから、伊月くんもきっと大丈夫よ。心拍数の心配をするよりも、今を楽しまなきゃ」
そうか。そうだよな。
街ですれ違う人たちも、電車で周りにいる人たちも。
みんな恋をして、このドキドキを乗り越えて来たに違いない。
そう思ったら、ずいぶん気持ちが軽くなった。
なんだ。今日、ここに来たのは無駄じゃなかったな。
駅ビルのカフェで彼氏と待ち合わせだと言う佐久間さんと、駅まで一緒に歩いていった。
「もしも、俺のネタを使ったシナリオが日の目を見ることになったら、絶対に教えてくださいよ」
「いいわよ。もうタイトルは思いついたから」
「へえ? 何ていうタイトルですか?」
「【突撃ジュリエット】」
「あれ? 俺が主役じゃないんですか?」
「それはドラマを見てのお楽しみ」
佐久間さんは結構自信家のようだ。
「うん。楽しみにしていますよ」
のちに月9の新ドラマ【突撃ジュリエット】のクレジットに、佐久間さんの名前を見つけた俺は嬉しくなったものだ。
たとえ、活発な女の子に片思いする主人公”伊月”が、かなりヘタレな男子高校生だったとしても。
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