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ベランダに両肘をついて重ねた手の甲に顎を乗せる。
熱帯夜に近い夜風がうねっているように頬に張り付いた。
瞼の上がじわっと汗ばむのが分かる。
僕は用意していた炭酸飲料の蓋を開けてチビチビと喉を湿らせた。一気にゴクゴク飲むよりも、こうやって少しずつ飲んだほうが美味しく感じるのは子供の頃から変わらない。少しずつ流れる炭酸が
暑い夜に心地好すぎる。
時折、空を見上げては見るのだが、少ない星の輝きはいつまで経っても増える気配はなかった。
それにしても今夜は珍しい。あれからパッタリと人の出入りが途絶えてしまったのだ。想定外の状況に脳は心を眠りへと誘(いざな)う。
今夜はもういいか・・・・
僕は最後に店を一瞥すると部屋の中に移動しようと網戸を体一つがやっと通るくらいに開けて入ろうとした。
コンコン・・・・
「ん?」
僕はドアの方向に視線を移し、耳に意識を集中させて体の動きを止めた。
「誰?」
声を押し殺すようにして聞いてみた。
「・・・・」
「誰だよ?」
少し間が空くようにして声が聞こえてきた。
「私だよ」
一気に緊張の糸が切れた気がした。
「なんだよ」そう言いながらドアを開ける。
「何か用なの?」
「今から向かいの店に行こうよ」
「はあ?」
「どうせ、もう寝るだけなんでしょ?行こうよ」
「何処だよ、向かいの店って?」
「・・・・あんたがいつもここから覗いてるあの店だよ」
母は薄い笑みを浮かべながらそう答えた。
僕は絶句した。
別に悪いことをしている訳でもないのに何故か後ろめたい気がして内心強く動揺している。どうして知っているのか聞けばいいのに、そうすれば心を見透かされているような答えが返ってきそうで、それが怖くて躊躇した。
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