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仕切りの横を通る。僕の後ろには誰もいない。思い切って顔を左に向けた。
僕の興味と期待がぐらぐらと沸騰してゆく。間違いなく、顔は真っ赤になっているはずだ。それほどの興奮が今、僕の中を駆け巡っている。
だが、現実はそうではなかった。何もないのだ。大袈裟に言っているわけでとなく、本当に何一つ物が置かれていないのだ。ただの空間がそこにあって、当たり前のような顔をしている。僕は振り返って仕切りを見た。絵もなければ飾りもない無地の平面がわざわざこの空間を作っている。
僕は意味が解らなかった。
母が自分の肩越しにチラッと僕の様子を見た。何か感じたりでもしたのであろうか。目は合わさないが余計なことはするなと横顔が命令している。僕がコクりと頷くと母は無表情で顔を戻した。
「中へどうぞ」
そう言われて僕らは店の人が開けたドアの中に入っていった。奥の角に小さなテーブルと椅子が二脚置いてある。この部屋も何とも殺風景で、母と僕はテーブルを挟んで椅子に腰を下ろした。
「お母様、ちょっとこちらへよろしいですか?」
母は返事もせずに座ったばかりの腰をあげて足早に部屋を出ていった。ドアが閉まるとカチャッと金属的な音がして、それがなんの音なのかすぐに察しがついた。
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