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「無茶しないでください。課長に何かあったら私どうすればいいのか分かりません。」
心からそう思う。あの光景を思い出すと万が一を想像するだけでも恐ろしい。
「そうですね。幼い頃より護身術など一通り身につけさせられていたのである程度、自信はありましたが過信はいけませんね。だけど、」
ーーー君を守らねばとそれだけで他は何も考えられなかった。
そう言うと課長は抱きしめていた手を緩め私との間に少し空間を作る。
目の前に課長の顔がありじっと見つめてくるからまともに見れなくてつい俯いてしまう。
「怖かったんだ。」
「あんな勢いで投げ飛ばしていたのに?」
つい照れ隠しで可愛くない事を言ってしまう。
「先程も言いましたが腕には自信があります。なので立ち向かう事への怖さはなかった。ただ、」
「ん?」
課長の両手が私の頬を包み込み顔を上げさせられる。漸く課長と目が合う。
「君に何かあったら。もし、君を失うような事があったらと。そう思うと今になって怖さが止まらないんだ。」
「課長…」
「僕は気付きました。」
「…何を、ですか?」
課長の触れる頬に熱が一瞬で集まっていくのが分かる。
「例え人を好きになっても裏切られたり去って行かれたりするのが辛いとこれまで思っていました。傷付きたくなくて、だから誰にも心を許さなかった。本気で好きになんてならなかった。あんなものくだらない戯言だと言い聞かせていた。」
課長の真剣な眼差しから逸らすことが出来ない。
「けれど、違った。」
「違った?どういう事、ですか。」
「何よりも怖いのは大切な人がこの世からいなくなってしまう事。君の存在が消えてなくなってしまうこと。今、僕はこうして君に触れる事が出来る。それだけでこんなにも心が落ち着く。」
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