SIDE 課長、三鬼直太朗

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そんな話…今更聞かされても。 「結果として僕は母に捨てられた。それは変えようのない事実です。」 「確かに。お前の母親も随分とそれで苦しんでいた。けれど、お前の事は一日たりとも忘れた事は無かったはずだ。お前を入れた寮の近くにずっと住んでいたからな。」 「近くに?住んでいた…。」 「影からお前の成長を見ていたそうだ。」 なんなんだ、それは。 知らぬは僕ばかりなのか? 「まぁ、私もお前を引き取ったものの全く懐いてもらえず戸惑った。それに本妻の手前、中々思うように接してやれなくて。すまなかったな。随分と寂しい思いをさせてしまった。」 嘘だろ? 今、僕の目の前で詫びているのは一体誰だ? 「それでまぁ、話はそれてしまったが私なりにお前の事を思い、今回、強引に縁談を進めたのだが結果として余計な世話だったようだな。私は父親業には向かんのかもしれないな。」 寂しそうにそう言う父を初めて血の通う人として思えた。 それまで父に対して何の感情も抱く事なく来たけれど、やけに年老いた様に見える目の前の人物を漸く父と認識出来た気がした。 確かに僕はこの人の子供なんだと。 帰りがけに父から一枚の名刺を渡された。 今、母はシングルマザーをメインとした人材派遣の会社を経営しているそうだ。 今でこそよく聞く話だか、母が取り組みだした頃はきっと理解者も多く無かったはずだ。 僕はその名刺をポケットにしまうと父の元を後にした。
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