SIDE 課長、三鬼直太朗

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僕は本当に修行僧になれるのではないだろうか。 酔った彼女を部屋に入れ、そして僕のベッドへと横たわらせた。 苦しいと言うので少し胸元のボタンも外してやった。 「はあ…無邪気な顔して寝てる。」 溜息しか出ない。 完全に酔っ払ってる彼女に手を出すのはフェアじゃない気がする。 僕の心に僅かばかり残っていたプライドがそう思わせる。 時間も時間だし送って行くべきなのだろうが、深い眠りへと入ってしまった彼女を前に成す術がない。 この状況で一晩、僕は過ごさねばならないのだろうか。 とんでもない。 やはり、もう少ししたら起こして送っていこう。 一先ず、彼女のご両親が心配しているといけないので彼女の自宅へ電話することにした。 どうなってるんだ、この家は。 電話に出た母親が 「わざわざ送って頂かなくても結構ですよ。どうぞ、煮るなり焼くなりお好きにしてください。ねっ、二人共、大人なんですし、課長さんにお任せしますから。」 と。 「いや、でもお父様がご心配されるのでは?」 「ああ、うちの人ならもう酔っ払って寝てますから気にする事ないですよ。それより私、今、ドラマ見てまして。愛の稲妻、ご存知?3月にね、終わったんですけど視聴率良かったから今夜はスペシャルでね、特別編ですって。あら嫌だ、CM終わっちゃった。じゃ、そういう事で。宜しくどうぞ。」 なるほど。 スペシャルなのか。 長話は無用という事だな。 「では、本日は責任持ってお預かりします。明日、送り届けますので。」 早急に電話を終わらせた。 ならば仕方ない。 あの時と同じように今夜も彼女を抱きしめ眠るとするか。 修行僧の様にひたすら煩悩と闘いながら。 「桃原さん、明日の朝は覚悟してください。」 夢の中の彼女に向けて言いながらそっと額に口付ける。そして彼女を毛布ごと抱きしめると瞼を閉じた。 明日の朝、彼女が目覚めたら一体、どんなリアクションをするのだろうかと楽しみに思いながらやがて、深い眠りについた。 ◆SIDE 課長 三鬼直太朗◆ずっと言えなかった思い 終
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