25人が本棚に入れています
本棚に追加
*
牛車に揺られている幸崎宗太郎です。突然に平安時代に迷い込み、こっちでの名前は「宗太」というらしいのですが、ほかの詳しいことは未だ不明です。僕の家がどんな家系で、僕はどんな役職なのか。アンジェラからの連絡を待つしかないのです。
牛車に乗ったのは隼人の家に向かうためだ。左近少将を名乗る隼人の家は式部宮という皇族の血を引いた家系らしい。少将とは貴族の役職名で、千年後の世界で言えば警察庁の中間管理職と言ったところであろうか。勤め先は宮中── 御所の中だ。
車が止まった。
「若君。式部宮家に到着いたしました」
お付きの者が声をかけてくれる。あれ?この声は……
牛車の扉が開くと、そこにいたのは泰ちゃんではないか!家を出発する時は考えごとをしていたから気付かなかったんだろうな、きっと。
「ありがとう、泰二」
有佐に続いて泰ちゃんまで僕の家来なのか。その泰ちゃん── おっと、この世界では呼び捨てにしなきゃいけないな。泰二がこの家の侍女らしい人物と話している。牛車から降り立つと侍女が近寄って来た。そして少将── 隼人の部屋まで案内してくれると言う。
「隼人さま…… 源左大臣家の右近少将、宗太さまがお見えになりました」
隼人のものらしき部屋の前で言う侍女。ほぉ、僕の家は源家なのか。平安末期に武士として勢力を強め、武家としての政権を立ち上げた、あの源氏の家系なのだろうか。右近少将…… 隼人と同じポストか。ならば気兼ねなく話せると言うもの。
「ありがとう、伊勢。下がっていいぞ」
部屋の中から声がする。聞き慣れたその声は、やっぱり僕が知っている隼人のものだ。
「よう、宗太。久しぶりだな」
隼人の目の前に用意してあったまるい座布団、円座にあぐらをかくと、ヤツが言う。ああ、本当に久しぶりだよ。元気そうだな。
最初のコメントを投稿しよう!