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「珍しいじゃないか。宗太が俺の誘いで来るなんて」
「ま、たまにはね」
「わかってるだろうけど、琵琶の練習なんて口実だ。宗太とは大納言家の話でもしようと思ってね」
と、悪戯な視線を向ける隼人。僕にはなんのことやらサッパリわからない。
「なんの話?」
「トボケる気か?ずいぶんと熱心に文を送っているらしいじゃないか」
ゴメン、全然話が見えない。
「誰に?」
「誰って、藤原大納言家の一の姫にだよ」
ここは平安時代なんだから、貴族の姫に『文を送る』ってことは僕がその姫に求愛してるってことなんだよなぁ。
「前にちらっと見かけたことがあるけど、美津子姫って可愛いもんなぁ……」
「美津子姫?」
何ぃ?美津子ちゃんも、この時代にいるのか?しかも僕はこの時代でも美津子ちゃんに恋をしている?
「式部宮と藤原大納言殿は親友だからな。最近病がちな大納言殿の御見舞いに、息子の俺が伺っても、なんの不自然もないよなぁ」
「ああ」
「行ってみないか?」
「どこに?」
「大納言家」
「これから?」
「そのつもりで宗太を誘ったんだけど」
と、ニヤケる隼人。この口車に乗ったとしても、平安時代のお姫様の美津子ちゃんに会えるわけか、悪くないかも。OK…… という言葉を寸でのところで止める。外来語が染み付いちゃってる千年後の日本語。気を付けなきゃ。
「いいよ。行こうぜ」
隼人が不適な笑みを浮かべる。やっぱり、何か企んでいるのか?早まったかな。
「そうと決まれば。伊勢!藤原大納言殿のご機嫌伺いに向かう。車の用意を」
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