青い地球はてのひら

5/6
前へ
/65ページ
次へ
 怒っていた有佐の表情が急に寂しそうになる。ミッコ…… その名前を聞くだけで胸が締め付けられる思いだ。僕はその名前── 宮地(みやじ)美津子(みつこ)という存在から逃れるために、このアンジェラの住人になったようなものなのだから。 「…… 美津子ちゃんが、どうかしたの?」  僕の質問に、再び有佐が怒りの表情になる。 「バカ!宗ちゃんのバカ!あれからミッコが、どれだけふさぎ込んでると思ってるの?なんとか仕事は続けてるみたいだけど、私の遊びの誘いにもまったく乗って来ないで、暇さえあれば宗ちゃん家のお墓の前で泣き崩れてるのよ。アンタはそんなミッコの姿、知らないでしょ」  そんな…… 美津子ちゃんが…… 「それでですね、ミカエルさん。このバカ宗太郎がいなくなってからと言うもの、ずっと悲しんでいる親友の姿に、私は宗ちゃんに会って文句を言いたいって、強く思うようになったんです」 「なるほど。で、ある日眠りに就いて、気が付いたらあの草原に迷い込んでいたというわけか…… おい、宗太郎」  ミカエルに呼ばれてハッとすると、彼は「あっちを見ろ」と言うようにあごで合図をする。 「アンジェラ様がお呼びだぞ」  後ろを振り向くと、部屋の入口の陰にアンジェラの姿が見える。僕は立ち上がり、小走りでアンジェラの元へと向かう。 「少々、厄介な状況になりました」  部屋から出てすぐの、窓から階下の庭を見下ろせる場所でそっちを見ながら呟くアンジェラ。僕は黙って彼女の背中を見つめる。ダメだ。まだ、さっき有佐が言ったことのショックから立ち直れない。 「あの世界でのあなたが、亡くなったのではなくこの地にいるのだと思っている者がいる以上、今の彼女のようにこの地に迷い込みやすくなってしまっているのでしょう。それは阻止しなければなりません」  窓の外を見ていた、真っ白なワンピース姿のアンジェラが僕のほうを向く。 「手を貸していただけますね」
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加