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しばらくして庭の植木が不自然な音を立てた。風でなびいているような音ではなく、誰か人の気配のような感じだ。
それは閉ざされた引き戸越しでもはっきりとわかる。ミカエル?と思ったけど、だったら堂々と入って来るよな。
もしかして……
全身の血の気が引いたと思った次の瞬間、今度は体全体が心臓なのかと思うくらい鼓動が高鳴る。盗賊が現れた?頼みのミカエルもいなくて、僕ひとりなのに……
やがてその気配は確実なものとなり、足音となってこっちに近付いて来る。もう、すぐそこまで足音が近付き、やがて止まったかと思うと衣擦れの音がする。誰かが間違いなく、縁側のすぐ下の地面にいるのだ。
(源左大臣家の右近少将、宗太殿でございますね)
確かに。その人の気配がする場所から男の声がする。恐怖よりも、本当に盗賊が僕の元を訪ねて来たと言う驚きで、すぐに声が出ない。
(式部宮家、一の姫の遣いで参った者です)
やっぱり。今そこにいる人物が盗賊なのか?それにしては低く落ち着いた品の良さそうな声をしている。
(無礼を承知で一の姫── 紫苑姫殿の誤解と濡れ衣を解くために参じました)
「誤解?…… 濡れ衣?……」
僕が鸚鵡返しのように呟くと、庭にいる男がちょっとだけ近付いたような気配がした。それにその声も、さっきよりハッキリと人間のものに感じる。
「はい。恐れながら紫苑姫殿、および清原少納言家の美緒姫殿の思惑についてご報告申し上げたく……」
「誰だ!そこにいるのは!」
男の発言を遮るように聞き慣れた声がする。ミカエルだ。縁側をドカドカと走って来る音が近付いて来る。待った!まだ男の話を聞いている途中なのに!
僕は立ち上がり、部屋の入口まで走って行って引き戸を開ける。すると庭を一目散に去って行く一人の人影が見えた。
「待って!」
僕が大声で叫んでも男は足を止めず、その背中はどんどん小さくなって行く。その背中をしばらく見ていたのだけど……
突然、男が腕を押さえて倒れ込んだではないか。男が倒れ込んだ逆の向きを見ると、縁側の廊下にひとりの女性が立っている。
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