25人が本棚に入れています
本棚に追加
/65ページ
紫苑姫の部屋に僕と隼人、それに紫苑姫と伊勢がいる。隼人は息が落ち着くのを待ったかのように、やがて口を開いた。
「美緒から全てを聞いたよ。俺がずっと清原家にいることを不思議に思ったのか、どうしてここにいるのか訊いて来たんだ。
俺が権中将殿の命を話すわけにも行かずに困っていると、美緒が話し始めてね。それで権中将殿と宗太が企んでいることを知ったんだ」
どーゆーこと?
「宗太。一連の、この式部宮家で起こった騒ぎなんだけど。実は盗賊なんて現れてはいなかったんだ。俺も最初は驚いたのだけど。全てはこの、妹の紫苑と、美緒の間で密かに交わされていた交友に端を発するんだ」
紫苑姫と美緒姫の思惑…左大臣家で捕らえた男が言っていたこと。隼人の発言が鍵となり、その謎が解けると言うのか……
「まず紫苑。美緒から聞いたのだけど、以前から密かに文のやりとりをしていたのは本当か?」
「ええ、兄上。本当よ」
そう答える紫苑姫の態度は、どこか堂々としている。
「誰にも気付かれないように、内密の使者を用意していたと聞いたのだけど。あの夜、騒ぎを起こしたのはその男で間違いないか?」
「ええ。そうよ」
「ちょっと待った。その話、私も加わっていいかな?」
紫苑姫の部屋の引き戸の向こうから声が聞こえた。ミカエルだ。
「ご、権中将殿」
隼人がうなるように呟き、そして立ち上がって引き戸を開く。廊下に立っていたミカエルに深くお辞儀をしたあと、部屋に招き入れる。
「右近少将を見送ったあと、すぐにすごい勢いで牛車が入って来たのが見えたので、もしやと思っていたんだ。やはり左近少将であったのか。
左大臣家からここまで来る間の右近少将の態度も気になっていたので、これは何かあるな、と思い始め、この家の者に紫苑姫の部屋の場所を聞き、やって来たのだ。
隼人少将、もう少し詳しく話を聞かせてもらえるかな」
ミカエルの言葉に、隼人がこの騒ぎの全貌を話し始めた。
最初のコメントを投稿しよう!